とろけるチーズ

去年の秋の終わり、母方の伯母が亡くなった。

裕福な商家の娘に生まれ、それでも時代が時代だったので、学校は中学ぐらいまでだったと思う。

お手伝いさんもいたようなお嬢様で、着物もたくさん持っていた。

伯母はなぜだか結婚しなかった。

家業が傾いたが、食い道楽を生かし、市場の鮮魚店で賄いのアルバイトをしていた。

祖父が寝たきり&痴呆になり、当時は介護制度がなかったため、祖父の介護を一手に引き受けるため、大好きなアルバイトをやめた。

呆けた祖父に罵倒されながらも、それでも伯母がいないと騒ぐ祖父の面倒を7年みた。

祖父が死んで、ようやくのんびりと余生を過ごせると思ったら、同居していた伯父が数千万円の借金を遺して亡くなった。

伯母は70歳をこえた歳で、それまでの広い庭つき家から高齢者用のワンルームに引っ越した。

そんな目に遭っても、前向きな伯母は、掃除の手間がかからなくて楽になった、マンションが南向きだから、冬でも暖かい、手をのばせばなんでも届くなどとすごく前向きに明るく受け止めた。

足が悪くなり、出かけられなくなっても、美味しいもの好きのヘルパーさんと料理の話を楽しんだり、旬のものを買ってきてもらったりして楽しそうにしていた。

伯母が毎朝パンにとろけるチーズを乗せて焼いて食べているというのを前に聞いたことがあった。

ほかにも好きなものはいろいろあったはずなのに、今日とろけるチーズを画像で見ると、急に涙がこぼれてきた。

旬の美味いものを知り尽くし、ほんのすこしずつ好きなものを楽しんだ伯母が、なぜ本場イタリアのモッツァレラチーズとかでなく、とろけるチーズなんだろうかというのがきっとずっと頭に引っかかっていたのかもしれない。

とろけるチーズ。

泣かせる。