悲しみを抱えた男

ケガ猫はいなくなった。

兄弟猫がいつも寂しげに鳴いていた。

寂しいのか、家人が見に行くといつも大きな声で鳴き、足元にまとわりつき、甘えてきた。

家人の足元にまとわりつくものだから、足元を見ずに歩いていて、うっかりと猫の足を踏んでしまった。

ギャッ!といって、逃げていった。

翌日、ニャーニャー言いつつ、遠巻きに眺め、近寄ると逃げて行く。

猫をこよなく愛する家人はいたく傷ついた。

怖かった記憶が薄まるまで、見に行かないと言ったが、10日ほどでまた見に行くようになった。

やっぱり近づいてこない。

猫を愛する男は心に傷を抱えて雄々しく生きていくのだ。